3月1日に公開される『フライト』のプロモーションのために、主演のデンゼル・ワシントンさん、ロバート・ゼメキス監督、プロデューサーのウォルター・ド・パークスさん、ローリー・マクドナルドさんの4人が来日、会見を行いました。その会見の模様をレポートします。
フライトとは
多くの命を救った、高度3万メートルからの緊急着陸。ウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)は、英雄なのか、犯罪者なのか。ダイナミックな着陸シーンと、その後の機長の心の揺れを描く。監督に『フォレスト・ガンプ/一期一会』などのロバート・ゼメキス監督。アカデミー賞、主演男優賞、脚本賞がノミネート。主演に、『トレーニング・デイ』でアカデミー主演男優賞を獲得したデンゼル・ワシントン。共演にドン・チードル等。
一日一日最善をつくすことでよりよい人間になりたい
デンゼル・ワシントンさんが主演賞にノミネートされている、アカデミー賞授賞式が25日に控えていました。そのことを聞かれ、デンゼルさんは、「壇上で日本語でありがとうございます」と言います」と答えていました。今の気持ちは? と、さらに聞かれると、
「私は毎日、日々その日を生きるということを大切にしています。今、私は東京にいて、25日のLAにいるわけではなく、今ここで皆さんとお話をしているわけです。日々、その日を生きている、そういう気持ちです」と答えていました。
「デンゼル・ワシントンさんは、今まで様々な役柄を演じてこられましたが、今回初めてパイロットを演じるにあたって、大変だったことは?」と聞かれ、「デルタ航空の協力を得て、フライトシミュレーターで訓練しました。普通は2、3年ほどかけて訓練するところ、2,3週間、実際には2,3日訓練しました。とても短い期間でしたが楽しくできました。
ロバート・ゼメキス監督は、パイロットでもありますので、質問があれば彼にいろいろ聞きました。必ずしも彼の答えが理解できたわけではありませんでしたが。非常に難しかったです」と答えていました。
映画の中で家族との問題が描かれます。主人公は、息子に「あなたは何者なのか?」と聞かれます。あなたが問われたなら? という質問に、デンゼル・ワシントンさんは、
「私はまず、人間です。一日一日最善を尽くしたいと思っています。もちろん、演じているキャラクター同様、誰もがなにかしら欠点があります。そういうものを直しつつ、よりよい人間になろうと努力しています。まだ途中ですが」と答えていました。
デンゼル・ワシントンの演技は作品にパワーと知性をもたらす
デンゼル・ワシントンさんは、スクリーンでは素晴らしいのですが、撮影中はどうでしたか? という質問に、ロバート・ゼメキス監督は、「デンゼルさんと仕事をするのはワクワクする素晴らしい体験でした。私はカメラの側から見ていたのですが、一番驚いたのは、監督の目から見て彼の選択が全て正しいということでした。監督として極力演出をしないで済んだようでした」
それに答えて、デンゼル・ワシントンさんは、「ゼメキス監督は非常にリラックスした環境を作ってくださいまして、我々俳優たちはみんな思っていたことですが、なんでも試せる、リスクなく試行錯誤ができる、不安を持つ必要がなく、監督を信頼することができました。毎日、「きょうはどう?」と聞くと「元気だよ」と答えてくれるし、とてもやりやすかったです」と語っていました。
ウォルター・ド・パークスさんは、「このような弱みを持った人間を描写するのは、とても強い力が必要です。私は彼の大ファンなのですが、今回一緒に仕事をし、このような問題を抱えた一人の人間を演じるのに、ものすごく真実味を持って描写しているのに驚きました。
また、彼はとても脚本に敬意を持ち、忠実だったことです。そんなことを言うと変に思われるかもしれませんが、わたしはとても感激したのです。それを真実を持ち、正直な気持ちで、コミットして演じている風に感じました」と語っていました。
ローリー・マクドナルドさんは、「彼が何を役に持ち込んでくれるのかと、とてもエキサイティングな気持ちでした。今まで彼が演じた役でもそうですが、彼は役に、知性とパワーを持ち込んでくれるのです。
『フライト』では地獄のような場所を通っていきます。この役では初めはとても自信があります。いろいろな問題を抱えながら、自分は強く賢いと思っているのです。そこから墜落していく。
デンゼル・ワシントンの素晴らしいところと、美しいところというのは、そういう強い部分も描写しながら、感情の部分の弱さ、脆さもちゃんと出していく。センチメンタルにはならずに見事に演じているところです」と答えていました。
背面飛行のシーンは厄介で時間もかかった
プロデューサーの意見を聞いてどう思いますかと聞かれ、デンゼルさんは、まず日本語でありがとうと言い、「とにかくベストを尽くすということです。それから今日のテーマになってきていますが、一日、一日、を大切にするということに尽きます。いい気分にさせてくれることですしね。
今日一緒にここにいる人々は本当に素晴らしい人たちです。今回はベストな人たちと仕事をすることで、全体のレベルが上がるのだと思いました」と語っていました。
フライトは作品賞、脚本賞にもノミネートされています。プロデューサーのウォルター・ド・パークスさんも、脚本賞にノミネートされた経験がおありのようですが、この作品を作った経緯は? という質問に、
「2006年のことですが、私とローリーは、脚本を書いたジョン・キャンディスが、まだ40ページぐらいしか書いていない段階で、脚本を読む機会に恵まれました。その時に今までに見たことのないようなシーンや、キャラクターが描かれていると思いました。
まだその時は映画化という段階ではなかったのですが、私たちが最後まで描けるようにサポートして、脚本が完成したら、これは素晴らしいものになるという確信がありました。
今のハリウッドでは予算が大きい映画やフランチャイズのものほど、脚本が大切にされていないという傾向がありますが、素晴らしい脚本により、製作に青信号がでることもあるのです」と答えていました。
背面飛行の撮影は、どのように行ったのですが? という質問に、ロバート・ゼメキス監督は、「厄介でもあり、時間もかかったシーンでしたが、我々には素晴らしい特殊効果のチームがあります。才能を持ち寄って作り上げました。実際には30人ぐらいの人に逆さまになってもらって恐怖を演じてもらいました」
どんな役でも実際に掴んだと思ったことはない
役へのアプローチについて聞かれ、デンゼル・ワシントンさんは、「脚本が素晴らしく、全て脚本に書いてありました。即興もアドリブも全く必要ありませんでした。後はレベルを調節したり、人に聞くことでアプローチしました。役作りにはいろいろなアプローチがありますが、今までどんな役でも実際に掴んだ、と思ったことはありません」
酔っているシーンについて聞かれ、監督は「彼と話し合ったのは、この男がどこにいるところなのか、ということでした。実際に彼が酔っているのは一つのシーンだけです」
デンゼル・ワシントンさんも「彼は酔っていないように見せるため、シラフを演じているんです。リラックスして、俺は全てOKだ、というように演じました。同じような演じ方といえば、泣くシーンもそうなんですよ。泣こうとするのではなく、泣くまいと我慢することを演じるのです」と答えていました。
演技論も飛び出し、とても実のある会見となりました。また、デンゼル・ワシントンさんの強いオーラにも圧倒されました。『フライト』は3月1日(金)に公開となります。
(取材・文 オライカート昌子)
フライト
2013年3月1日(金) 丸の内ピカデリー ほか全国ロードショー